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平成養生訓
人生にエッセンス、医療ジャーナリストの“丸山寛之さん”が綴る、平成養生訓を紹介いたします。
Vol.132010年4月17日
下を向いて寝よう!
「運動は好きだけど、時間がなくてできないから、なるべく歩くようにしている。
空港に行っても動く歩道には乗らない。
両手に荷物を持って、大股でサッサッと歩いてベルトに乗ってる人を追い抜いちゃう。
ビルの2階か3階までならエレベーターは使わない。階段を1段飛ばしで上がる。
急いでバーッと上がって1階上まで行っちゃうこともある」
こう言って、笑った人は、いま、日本でいちばん有名なお医者さん―日野原重明先生です。
おどろき、なかばあきれて、お歳、サバ読んでおられるのではありませんか?
半分本気で確かめたら、
「そんなことはない。1911年生まれの93歳。だけど命は長さじゃない。深さなのですよ」
記録破りの猛暑が続いていた8月のある日、東京・築地の聖路加国際病院に日野原先生を訪ねて、先生が提唱し普及運動を進めている「腹臥位療法」(ふくがいりょうほう)の話を伺いました。
腹臥位療法―ひらたくいえば「うつぶせ寝健康法」です。
先生ご自身、いろいろな効果を体験されているそうです。
「私は若いころ結核をやったので、結核の痕と気管支拡張症があって痰がたまるのだが、うつぶせに寝ると、呼吸が楽になり、痰が出やすくなって、朝起きたとき、快適です。
ぜんそくの人なども、うつぶせ寝をするといいんです。
ぜんそくで苦しいときは、起座呼吸(上体を起こしてする呼吸)をしますが、うつぶせになればさらによい。
私は、ぜんそくや気管支拡張症の患者さんにこれを試みました。
呼息(口から息を吐き出すこと)がしやすくなり、痰も出やすく、楽に眠れるようになりました。
慢性の呼吸器疾患で咳や痰の多い人は、うつぶせに寝て、昼間も何回かうつぶせの姿勢をすると、呼吸機能が改善されるという報告もあります」
「二つめの効用は、うつぶせに寝ると腹腔に圧がかかって、腸の動きが促進される。
おなかのマッサージをするのと同じような効果があるので、ガスが出やすい。便通もよくなります。
腹臥位療法をするようになったら便秘の薬がいらなくなったという人が多い。
食べ過ぎたときも、うつぶせになって左をちょっと上げるといい。
胃の中のものが小腸へ早く移ります」
「それから、肩こりにもいいですよ。
うつぶせに寝ると両ひじが上がって、肩を広げるような形になるでしょう。肩関節の緊張がとれます。
寝たきりが長くて、肩がこわばってしまった人も、うつぶせ寝を始めたら、着物を脱いだり着たりするのが楽になるようです」
いいことづくめのうつぶせ寝健康法。
そもそも先生がこれに着目したのは、寝たきりの人の褥瘡(じょくそう)(床ずれ)を防ぎ・治すためでした。
「いま、六五歳以上の日本人の約5%は寝たきりになっている。
それがたいてい仰向けに寝ているので、床ずれができやすい。
なにかいい対処法はないかとずっと考えていたら、フランス人にはほとんど褥瘡(じょくそう)がないことを知った。うつぶせ寝をしているためです。
腹側には骨が通ってないから床ずれを起こしにくいのです。
そして、うつぶせだと自分で体位が変えられる。
寝ていても意外と体を動かすので寝たきりを防ぐのにも役立ちます。
脳卒中の回復もうつぶせ寝のほうが早いのです」
毎朝、目が覚めたときに25分ずつうつぶせ寝を続けて、寝たきり状態から脱出した例もあるそうです。
お話を伺ったその日から私も早速、うつぶせ寝の練習を始めました。
最初はちょっとしんどい感じでしたが、いまは寝床に入ってうつぶせになると、そのまま眠ってしまいます。
ある朝、目覚めぎわの頭にこんなフレーズが浮かびました。
坂本九ちゃん「上を向いて歩こう」、日野原先生「下を向いて寝よう」。














