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平成養生訓
人生にエッセンス、医療ジャーナリストの“丸山寛之さん”が綴る、平成養生訓を紹介いたします。
Vol.122010年4月16日
トントン「トンカチ健康法」
燃える炎の真っ只中にいるような異常な暑さの夏がようやく去って、秋がきました。青く澄みきった空を悠々と流れる白い雲を眺めていると、ふと小さな旅がしたくなります。
あの萩原朔太朗の詩のような・・・。
あまりにも有名なその詩(「旅上」)の全文はこんなふうです。
ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し/せめては新しき背広を着て/
きままなる旅にいでてみん。汽車が山道をゆくとき/みづいろの窓によりかかりて/われひとりうれしきことをおもはむ/五月の朝のしののめ/うら若草のもえいづる心まかせに。
―どうですか?旅情しきりにそそられるようではありませんか。
詩人は新しい背広を着て、どうやら夜汽車に乗ったようですが、この詩を読むたびきまって私の頭に浮かぶ考古学者、樋口清之先生の旅行鞄にはかならず小ぶりの金槌が入っていたそうです。が、行先が奈良のばあいは別でした。定宿の日吉館に愛用の一丁が預けられてあったからです。
いったい、そんなものを何に用いたのか。硬くなった石頭を叩いた?なんて失礼な想像をしてはいけません。毎晩、就寝前に足の裏を金槌で叩くのが、先生の少年時代からの習慣であり、唯一の健康法だったのです。
寝床の上にあぐらをかき、足の裏の土踏まずのところを、トンカチでトントントン・・・・・・とリズミカルに10分間ほど両足をかわるがわる叩く。すると足がポーッと温かくなり、熟睡できる、と言っておられました。
「風邪気味のときなど、いつもより念入りに時間をかけて叩くと、風呂に入って汗を出すのと同じ効果があるようです。食べ過ぎて腹が張っているときも、これをやるとスッと楽になります。自己暗示かもしれませんが、足の裏の響きが内臓に伝わり、腸の蠕動が促されるような気がします」とも話しておられました。
東洋医学の専門家に聞くと、それは十分理由のあることだそうです。足の裏の土踏まずのへりには「湧泉」という、その名のとおり生命の泉を湧き起こすツボがあります。
「湧泉を刺激すると、全身の皮膚や筋肉、靭帯など軟部組織の血行が促進され、柔軟性と弾力性が回復し、体の運動機能が高まる。結果、全身の血液循環が促進(高血圧の人では一時的に血圧が下がる)、内臓のはたらきが活性化される。毎日習慣的に続けることの健康効果は計りしれない」ということです。
1秒間に2回程度の速さで、心地よい痛みを感じるような強さで叩く。就寝前のほか思いついたとき片足50回くらいずつ叩くとさらによい。金槌がなかったらコーラの空き瓶などで代用しても結構―ということでした。
毎日続けてやるのがいいに決まっていますが、足がだるくて寝つけないようなときは即効が得られます。私も寝床のそばに木槌(金槌よりも感触がソフトになるようです)を常備してあり、しばしば試して効果を確認しています。
樋口先生は、ご母堂(奈良女子高等師範学校第1期生だった由)からこの「トンカチ健康法」を教わったと言っておられました。樋口清之先生は歴史を単なる知識に終わらせることなく、常に現代との接点を模索しながら、「なぜ?」と問いかける姿勢を終生持ち続けた学究でした。平易な語り口で日本文化論を展開した「梅干と日本刀」はベストセラーとなり、「うめぼし博士」の愛称で親しまれました。
平成9年2月、急性腎不全のため88年の生涯を閉じましたが、それまでは無病息災。「お達者人生」のお手本のような人でもありました。














